*ネタバレ注意*

明智探偵目撃報告・書籍版

明智探偵目撃記録



書籍における明智探偵を追っかけよう!企画です。
わたしが読んだ本に登場した明智さん+αの独断と偏見による感想文です。


                                                                                            

タイトル 著者名 出版社 一口メモ
ドクターGの島 高階良子 ぶんか社 蓑浦金之介が美少女に!
諸戸道雄がロン毛でニヒルな高校講師に!

少女雑誌向けに「孤島の鬼」を脚色したら多分こうなるだろうなあ〜と万人がある程度想像できる内容です〜。

但し、原作からタイトルだけ借りた別物になるわけでもなく、内容はきちんと「孤島の鬼」しているところがすごい。主人公の性格も(性別も)天と地ほど違うにも関わらず。
(以下、原作の諸戸道雄は『道雄さん』、ドクターGは『諸戸先生』と表記して区別します)
とにかく、主人公の小夜子(原作でいう蓑浦君)の性格が素直。可憐なだけでなく、言動に裏表無く真心もある。小夜子には彼女の原型・原作の蓑浦くんのように、諸戸先生に気を持たせるような小悪魔的なところは微塵もありません。非常にいい娘です。しかしそれはとりもなおさず諸戸先生にしてみれば、完全片思い、小夜子に振られっぱなしの失恋ピエロに徹せざるえないということでもあり、それはそれでお気の毒。勘違いにも「小夜ちゃんはもしかして僕のことが好き?」と思うようなドキドキなシチュエーションに恵まれることもなく、見事な振られ男を演じさせられてしまうのです。つまるところ諸戸先生、小夜子にとっては(恋愛対象としては)まるでお呼びでないんですね。問題外っつーか、圏外っつーか、アウト・オブ・眼中っつーか。原作の道雄さんは小悪魔・金ちゃん相手にいろいろとおいしいシーン(?)にも恵まれたのに、諸戸先生は世界の中心で愛を叫んでも誰も聞いちゃいないって感じ・・。かわいそう・・・。

諸戸先生は恋愛対象が美少女というところで原作よりも救われてしまいます。原作の道雄さんなんざ、出生の秘密と家庭環境の苦悩に加えて変態性欲者(ホ○)という三重苦で、救いようのなさは乱歩作品の一二を争いますから。少なくとも、諸戸先生はホモでないだけ救われている。ただ、性的にノーマルな諸戸先生には、性的にアブない原作の道雄さんのような悶えや苦悩の濃密さや複雑さがまるっきり足りてません。ホント言うと孤島の鬼の真骨頂はこの道雄さんのアブノーマルな恋に悶え苦しみのたうち回り、煩悩と苦悩と絶望と自責の中で死んでいくところにあるんですがね。だいたい『孤島の鬼』の裏主題って、あれでしょ、禁断の同性愛。これがごそっと抜け落ちたら、牛肉を入れ忘れたビーフシチューのようなものです。

そんなこんなで諸戸道雄的にはかなり薄くなってしまったけど、そのかわり小夜ちゃん的にはいい感じです。まっすぐで健気なヒロインには最後に幸福が用意されているという少女漫画の鉄則が貫かれ、小夜ちゃんは迷路の洞窟から無事生還(髪がアントワネット様になることもなく)。人造双生児の片割れ健二くん(原作でいうところの秀ちゃん)の胸に晴れやかに飛び込んで行って大ハッピーエンド。
一方、諸戸先生は暗い洞窟の中で改造人間の角に突かれ、小夜子に看取られることもなく一人寂しく息を引き取るのです。実に見事なかませ犬っぷりでした。

原作みたいなアブない道雄さんの七転八倒ぶりを期待するとがっかりするけど、掲載紙が少女雑誌だったことを鑑みれば、これはこれで十分ありかな、小夜ちゃん視点にシフトしたらむしろおもしろいかな、と思います。気に入りました。

(高階先生には是非「魔術師」を描いて頂きたいのですが、もう乱歩作品は描かないのかな。)

備考:小夜ちゃんの第一印象、「悪魔の花嫁」の美奈子。諸戸先生、同じくデイモス。しかも初期の頃。
まんがグリム童話 江戸川乱歩編
黒蜥蜴
魔木子 ぶんか社 乱歩の書いた「黒蜥蜴」を期待したら激しく裏切られます。これならまだ森園みるく氏のほうが原作よりで黒蜥蜴の濃厚な世界観を出していると思う。
ここの「黒蜥蜴」は乱歩の小説に登場する以前の話で、彼女が「黒蜥蜴」を名乗るに至った経緯が描かれています。乱歩っぽい出来かどうかと問われれば「否」(個人的見解)。テレビのサスペンス劇場の犯行動機や非行動機によくあるパターンで普通過ぎて驚きが足りない。また、絵柄がガラス・キューブのように透明で硬質なので、黒蜥蜴みたいなドロドロした作品には向いていないと思う。江戸川乱歩の他の作品を選んだ方が良かったように思われます。
まんがグリム童話 江戸川乱歩編
D坂の殺人事件
花小路ゆみ ぶんか社 D坂はかなり原作に忠実。絵もストーリーによくあっていてナイスです。ただ、明智さんの風貌が、下宿住まいで書籍に埋もれ、棒縞柄の浴衣を着たモジャモジャ頭の金田一耕助風ではなく、探偵事務所をすでに持ち、小林君付のダンディ・明智なのです。無職の高等遊民ではなく一旗あげしまってます。しかも主人公の「わたし」が何故か「玉村文代」になっている。そう、明智さんの若くて美しい未来の奥さん。こんなところで文代さんを出してしまったら「魔術師」が出来ないじゃん!(描くつもりはないんでしょうね)。
しかしこのムリヤリ登場の文代さん(←驚いたことに主役に大抜擢)がすんごくキュート。天真爛漫で鷹揚で性格も容姿も可愛い。魔術師の娘として育った「文代」でなく、最初から銀座の宝石商の裕福で暖かい家庭に大事に育てられた、大店の娘らしい「文代お嬢さん」。普通なら敬遠される設定(出るはずのない登場人物をムリヤリ引っ張り出す)のはずの文代お嬢さんの存在ですが、そんなに違和感がありません。「魔術師」の件さえ目をつぶれば全然問題なし。十分「あり」です。文代さんの存在はおどろおどろしい事件における一服の清涼剤となってますが、だからといって原作の持つ雰囲気をぶちこわしているってわけではないのでご安心を。
まんがグリム童話 江戸川乱歩編
妻に失恋した男
花小路ゆみ ぶんか社 着物に耳隠しの大正浪漫で可憐な文代さんが主役の続編。
原作では文代さんはもとより明智探偵も出ないのですが、それでは作品が地味に成りすぎるらしく(個人的見解)、原作の地味〜な刑事を明智さんと交代させ、それに綺麗で可憐な花を添えて華やかさを演出したようです(個人的推測)
これも登場人物の入れ替えと細かい設定以外は原作通りと言っても差し支えないと思います。掲載誌が淑女向けの官能雑誌だったようで、入れなくてもいいようなお色気シーンがあるけど、そんなものも文代さんの可憐さの前にはないも同じ。とにかく、文代さんファンは一読の価値有りです。
まんがグリム童話 江戸川乱歩編
人でなしの恋
板東いるか ぶんか社 絵は柔らかく妖しく美しく古風で「人でなしの恋」にぴったり。ただ、ちょっと絡みシーンが濃厚なので苦手な人は要注意です。
ええと、最後のどんでん返し直前までほぼ原作通りです。
最後の付け足しは蛇足と言えば蛇足だけど、『門野の「人でない人形との道ならぬ恋」』よりも『京子夫人の「人でなしな恋」』に焦点をあてて拡大解釈すると、そういう脚色もないとは言い切れないかなと、思われます。原作の「人でなし」ってタイトルも、門野と京子の両方の「恋」にかかっているんだと思いますので。わたしはそれほど嫌いな蛇足ではなかったです。
まんがグリム童話 江戸川乱歩編
屋根裏の散歩者
比固地朔弥 ぶんか社 全体の印象としては、たぶん万人に嫌われないだろうと思われる無難な絵柄。これはなかなかストーリーにあってていいと思います。ただ、話の根本的な部分(動機付け)で改変があるのが気に掛かる。謎解きも改変してあったし、ボタンのエピソードも省略、そしてなにより肝心な明智さんが出てこない・・・。はぁああああああ???? だめじゃん!そんな省略! ってことで、屋根裏の散歩者なんだけど、根本的な部分で違う、なんちゃって屋根裏作品でした。ついでにこれにもサービス・シーンがあるから覚悟するように。(そんなシーンいらないから明智さんを出してよ(怒))
まんがグリム童話 江戸川乱歩編
鏡地獄
比固地朔弥 ぶんか社 原作と別物っぷりは「乱歩地獄」の比ではなかった。
これもまたひどい改変。ここまで違うならオリジナルってことで描いた方がよかったんじゃないかと思います。原作は神の領域を侵すほどの鏡マニアの話だと思ってたけど(←大要約)、ここではただのナルシー話に成り下がってました。
乱歩の鏡地獄を期待してるなら激しく裏切られるから読まなくてもいいかも。
黒蜥蜴 作画:森園みるく
脚色:村崎百郎
ぶんか社 えーと、舞台は現代に置き換えられています。内容は長編小説を短編漫画に描き直さなければならない制約があったせいか、かなり端折って改変されてます。原作や三輪さんの舞台では重要なファクターとなっている恐怖美術館や人間剥製がごそっと削除。(ありゃりゃ) そのかわりあんまりスポットが当てられなかった黒蜥蜴の本当の正体が付け加えられて、それは割とよかったかも。少ない枚数でよくまとめられていたと思います。 絵柄は黒蜥蜴が叶恭子劇画風で耽美なんだけど、なんか暑苦しい。明智さんもギリシャ彫刻みたいで端正なんだけど肉感的で暑苦しい。小林くんも出てきます。これは少年ではなく蝶ネクタイの小林(美)青年。悪くないんだけどねぇ・・・暑苦しい。 ついでに意味もなく不必要な緊縛アダ○ト・シーンがバーーーーンとあったり(なんでこんな穏やかでないコマ挿入したかなぁ)、黒蜥蜴と明智さんのあからさまな絡みシーンがバーンとあったり(これは黒蜥蜴のドリームなんだけど・・・・、言っていい? いらねーよ、そんなシーン!)、読むには覚悟とある種の割り切りが必要です。・・・・明智探偵の貴重な生尻を見たい方はどうぞ(鬱)
夕焼けの詩 第2巻 
真夜中のミシン
西岸良平 映画『三丁目の夕日』でブレイク中の西岸良平著、「夕焼けの詩 第2巻 真夜中のミシン」に二十面相が出てますv

と、言ってもここでの名乗りは「怪人四十面相」。
要約すると『四十面相、ヘッドハンティングの巻』なんですが、ピエロに化けたり警官に化けたり絶海の孤島に豪華な隠れ家を持っていたりかなりいい感じです。しかも好青年(西岸良平・基準)v 
フランス語もぺらぺらな怪人四十面相は一読の価値大ありです。

ただ、西岸先生は二十面相が四十面相と名乗ったこともあるのをご存じなく、二十面相のモジリとして四十面相の名を使っただけかも知らず、乱歩の二十面相として描いたかどうかは謎です。でも、ここまで一緒だと同一人物と素直に思っていてもいいような気がします。
ちなみに1975年の作品。(今からぴったり30年まえだ!)

本からスキャンするほど強者ではないので、原作をまねて描いてみました。思い出しながら描いたので微妙に違うかも。イメージということで勘弁して下さい

イメージ画像

普段の四十面相 四十面相 本業バージョン

妖怪缶詰1 魔夜峰央 白泉社文庫 「パタリロ」の作者、魔夜峰央(通称ミーちゃん)の妖怪もの総集編。その中の「妖怪一口鬼」に小林少年(らしき人物)が登場。昭和初期、有名探偵の少年助手小林クンが山奥の農村で起きた殺人事件を解決するお話。ミーちゃん風美少年の小林クンは一見の価値あり。BDバッチを銭形平次みたいに武器にして戦う小林くんも見物です。「黄金怪人」事件で忙しい先生は台詞だけでの登場。
関連記事:二十面相談話室『2004/05/29(土)魔夜先生の小林少年
怪人二十面相 有田景 ホラーM
(ぶんか社)
ホラーM創刊10周年記念特別企画。
二十面相談話室 『2004/06/19(土) ホラーM、その二十面相はいかがなものか』と共通
完全版・怪人二十面相伝 北村想 出版芸術社 絶版になっていた「怪人二十面相・伝 新潮社」「青銅の魔人・伝 新潮社」の待ちに待った完全復刻版。 二十面相側から描いた明智vs二十面相のサイド・ストーリー。「サーカスの怪人」で明らかになった怪人二十面相の過去に迫ります。二十面相ファンでなくてもお薦めの書。是非読みましょう!
(備考 オフライン:二十面相検証シリーズ4に詳細収録)
義経幻殺録 井沢元彦 講談社文庫 文壇にデビューしたばかりの芥川龍之介が探偵役となり、「義経=清王朝の祖?」という歴史の常識を覆す証拠となる秘本を求め奔走する。龍之介が西に東に奔走するその影で、ロマノフ王朝の正当王位継承権を証明するペテルブルクの星を追う白系ロシア人の組織と帝国陸軍の陰謀が蠢いていた。否応なく巻き込まれていく名探偵・芥川氏のスリルとサスペンスに満ちた歴史冒険活劇。 ここに登場するのは二十歳そこそこの若き日の明智小五郎です。最初は匿名で登場するのですが、風貌の記述だけで明智ファンなら「ピン!」ときます。この二十歳そこそこの明智さん、まだ探偵として一人前になる前で、後の大探偵の片鱗は見せているものの、初々しくてとってもかわいいのです! ロマノフ王朝の生き残り、アナスタシア皇女をもり立ててペテルブルクの星の奪還を目指すロシア貴族の美しき伯爵夫人に岡惚れし、本人は騎士を気取っているものの、肝心の伯爵夫人にとっては「都合のいい下僕以下」。伯爵夫人に手玉にとられ、さんざん利用された挙げ句、無惨に玉砕。麗しの伯爵夫人の真の心を知ったとき、初だった明智小五郎は一人さめざめと泣くのです(潜んでいた椅子の中で。滑稽だけにいじらしい)。最初から伯爵夫人に胡散臭さを感じていた芥川氏の忠告がなかったら、もしかすると後の大探偵・明智小五郎はなかったかもしれません。青年・明智小五郎のいじらしくも純情だった姿を堪能できるお薦め作品です。 *芥川龍之介が主役シリーズ「ダビデの星の暗号」では、デビュー前の乱歩自身がゲスト出演しています。
名探偵なんか怖くない 西村京太郎 講談社文庫 府中3億円事件がまだ世間を賑わしていた頃、奇特な金持ちが自己資金3億円を投げ出して事件の解明に乗り出した。事件とまったく同じシチュエーションを用意して、犯人役に3億円を盗ませる擬似事件を作り出し、犯人役の行動パターンを追いかけながら本物の犯人の行方を推理しようという趣向だ。その探偵役として招かれたのが世界に名を轟かせた往年の名探偵、ポアロ、クイーン、メグレ警部そして明智小五郎だった。老いたりとはいえ頭脳は現役の名探偵たちは犯人役の行動をピタリピタリと当てていく。が、擬似・3億円事件の進行する中、なんと犯人役の青年が殺害されてしまった。青年を殺害したのは誰か? 盗まれた3億円の行方は? 名探偵4人は真犯人を挙げることができるのか?  十津川警部でお馴染みの西村京太郎氏の初期の作品、名探偵4部作の第1作目。 すごく思い切ったパロディだと思います。それぞれに根強いファンがついている名探偵を使って違和感無く面白く読ませるには、自分のキャラクターを使って作品を書くより大変だと思います。ちょっとでもおかしなことを書いたなら、ファンから非難囂々ブーイングの嵐となるのは必定。しかし明智探偵とポアロに限り、両氏のファンである私から(僭越ではございますが)言わせて貰いますと、花丸合格です。おそらくクイーンもファンの期待を裏切らないものになっていると思います。メグレ警部については残念ながらよくわかりませんが、一人だけ大ハズレってことはないかと存じます。原作には書かれなかった名探偵たちのサイド・ストーリーとしても、ミステリとしても楽しめる超お薦め作品です。
名探偵が多すぎる 西村京太郎 講談社文庫 ポアロ、メグレ警部、クイーン、明智小五郎の活躍する名探偵シリーズ第2弾。 前回の3億円事件で知り合いになったポアロ、クイーン、メグレを明智小五郎が日本でゆっくり過ごして貰うために船旅に招待する。今回は事件なしのまったくのプライベートなはずだったのだが、名探偵の行くところに事件あり。なんとあの怪盗ルパンから挑戦状が届けられた。さらにあろうことか二十面相の影までがちらつき最高の推理ゲームが展開されるはずだったのだが、本当の殺人事件が起きてしまう。名探偵対世紀の怪盗、軍配があがるのはどちらか!?  明智探偵のサイド・ストーリーどころかこんなところで二十面相にまでお目にかかることができるなんてすごく得した気分です。ただ二十面相がルパンの陰に隠れて目立たなかったのが少し残念かな・・。探せばもっと他の作家の作品の中にもちゃっかり登場しているかも知れないです。ちなみに田村正和主演ドラマ「明智小五郎対怪人二十面相」で二十面相の本名として使われた「中里」は、この小説の二十面相の偽名とおなじで、ここからとったのかなと勝手に思って楽しんでします。とにかくパロディーとしてもミステリ作品としても完成度が高く、満足できるストーリーに仕上がってると思います。個人的にお勧め作品。
名探偵も楽じゃない 西村京太郎 講談社文庫 名探偵シリーズ第3弾。 お馴染み名探偵4人組が推理小説マニアの会合に招かれ日本に再々度集結。その会合に飛び入りで自称名探偵の青年・左文字京太郎が現れる。左文字はミステリ会員には顰蹙を買うが、新しい時代に相応しい名探偵の登場を待ちわびていた4人の名探偵は、彼に慈父のような期待を寄せる。そして起こるお約束の事件。彼らの会合に連続殺人の予告のカードが送りつけられ、予告通り会の主催者が名探偵達の目の前で毒殺されたのだ。第一の殺人、それを皮切りに次々と殺害されていく会員たち。自称名探偵に席を譲った4人は彼の手腕を観察するのだが、果たして左文字青年は老探偵たちの期待に添うことができるだろうか、また老探偵たちは「引退」できるのか。 謎解きものとしてもおもしろいのでやっぱりおススメ作品。ただし、「楽じゃない」「多すぎる」同様、原作のネタバレありなので要注意。とりあえず、4名探偵の活躍する代表作ぐらいは読んでおかないと、内容は知らないのに犯人だけ分かってしまう事態に陥ります。
名探偵に乾杯 西村京太郎 講談社文庫 名探偵シリーズ第4弾にして最終話。 ポアロ、スタイルズ荘にて死す。旧友の死に自らの死についても口にするようになった明智に、小林(大昔)少年は気が気ではない。そんなある日、明智の所有する島でポアロを偲ぶ会を開くことになり、小林(元)少年はそこにクイーン、メグレそしてポアロの親友ヘイスティングス氏を招待したのだが、なんとそこへポアロの隠し子を自称する青年がやってきた。青年は本当にポアロの隠し子なのか? ミステリの王道、トリックの王様「密室状態となった孤島」を舞台に繰り広げられる連続殺人劇の謎に(自称)ポアロの息子が父譲りの灰色の脳ミソで挑む。 シリーズ最終作もお薦めです。お薦めの大安売りですが本当にそうなのだから仕方ありません。二十面相に続いて明智さんには欠かせない小林くんも今回登場するのですが、かつての紅顔の美少年も無惨な中年なってしまっていました。妙に現実的。「伊昔紅顔美少年」とはよく言ったもので、小林君の姿を眺めながら明智さんもしみじみ、「昔の君(小林君)の少年期の美しさには恋愛感情に似たものを覚えたものだがねえ・・」と嘆息されてしまう始末。とはいえ、結婚して大きな娘もいて腹の出っ張った凡庸な中年男となってしまった小林くんも、なかなかいい味出しているのです。
二青年図 乱歩と岩田準一 岩田準子 新潮社 岩田準一の孫娘の書いた乱歩と岩田準一(乱歩のパノラマ島奇談の最初の挿し絵を描いた人物。または乱歩の男色資料の蒐集仲間。男色研究を重ね、かの南方熊楠と男色研究の書簡をやりとりした男色研究の第一人者)の関係を小説風に書いた作品。本当のこと半分、妄想半分なんだろうとは思うけど、あまり語られることのなかった岩田準一について知ることができる興味深い作品です。遺族が書いた作品でもあり、きわどい部分は夢落ちなので、絶版になることはあっても「剣と寒紅」のように発禁になることはないと思います。
少年探偵王 鮎川哲也監修・芦辺拓編 光文社文庫 怪人二十面相の活躍する「まほうやしき」「ふしぎな人」「かいじん二十めんそう」収録。ポプラ社以外の怪人二十面相の活躍に注目。ただ低学年向けなのでひらがなばかりの内容です。
乱歩先生の素敵な冒険 高原伸安 文芸社 昭和七年、失踪中の江戸川乱歩は乱歩ファンの富豪三垣氏の元で食客となっていた・・。 三垣氏のもとで書生をしている友人の招きを受け、小説家志望で乱歩ファンでもある「私」が訪ねていくと、そこでは乱歩の陰獣よろしく三垣夫人に元恋人からの脅迫状が届く事件が起こっていた。三垣氏の依頼を受けて乱歩、私、小松探偵が脅迫状の調査に乗り出すのだが、そのさなか、連続密室殺人事件が起きてしまう。犯人は三垣夫人の元恋人か、それとも三垣氏に恨みを持つ遠藤平吉か。陸の孤島となった三垣邸で探偵・乱歩先生が犯人を推理する。 「復讐鬼・遠藤平吉」という登場人物紹介ページを見て、一に二もなく買ってしまいました。遠藤平吉に二十面相ばりの活躍はまったく望めませんが、なかなかおもしろい話でした。密室殺人のトリックよりも犯人の隠し方に妙技ありです。
江戸川乱歩の大推理 辻真先 光文社文庫 乱歩生誕100年の時に書かれたものらしいです。が、乱歩自身は出てきません。 乱歩に将来を嘱望されながらその激しい叱責を受けて筆を折った作家、尾西東行の幻の作品を、作家志望の一青年が掘り出したのをきっかけに、乱歩と尾西と幻の作品の謎に迫るという内容でした。物語は二転三転してなかなか凝っているのですが、作中小説・尾西東行作「仮面の恋」だけは首をひねりました。ちょっとヘボいんですよね・・。
二十面相の娘 1 小原愼司 メディアファクトリー
(コミック)
時代は戦後。資産家の娘千津子(愛称チコ)が財産目当てで毒殺をもくろむ叔父夫婦から逃れ二十面相の配下に加わり、「二十面相」の後継者として育っていく(かもしれないと期待させる)話。前半と後半の話は設定が少し違っていて、前半のチコは「資産家の娘」として登場し、後半は「貧しい家の娘」として登場します。登場人物は同じでも本の真ん中から設定が違うのです。作者は「資産家の娘」説より後半の「貧しい家の娘」説を採ることにしたのでしょうか。いずれの設定でも、最後はチコ以外の二十面相怪盗団の生死は不明になってしまうのですが、死体も確認されていないことですし、再登場が期待されます(期待してるのです!)。二十面相と同じ目をした少女チコのその後も気になるし、戦時中、軍部と関わりがあったらしい二十面相の過去も気になるし、今後の展開が非常に楽しみです。絵の方はそれほどうまくないけど、原作の雰囲気を損なわない、いい作品だと思います。それから(これは重要)ここの二十面相はすばらしくかっこよく、怪盗紳士の名に恥じない男として登場しますので、二十面相ファンは必見です!
押し絵と旅する男 長田ノオト 蒼馬社
(コミック)
古本屋でたまたま見かけ、見知らぬ作家さんだったが迷わず購入。 睫毛バサバサの異様に耽美な絵柄にちょっと戸惑ったけど、江戸前で美しい敬語で語られる台詞には合っているような気がします。 標題以外にもいくつか短編が載っていて、それもちょっと乱歩風。ページ数が足りなかったのか、せっかくおもしろい題材なのに消化不良気味だったのは残念。
屋根裏の散歩者 長田ノオト 秋田書店
(コミック
表題は「屋根裏の散歩者」ですが、人でなしの恋や孤島の鬼をモチーフにした短編連作になっています。とてつもなく耽美絵の明智さんが見られて、画風に慣れれば目の保養になります。郷田三郎、小林少年の美少年ぶりも目の保養かも。
黒とかげ 高階良子 講談社漫画文庫
(コミック)
絵柄はさすがに時代を感じる(それがまたいい)が完成度は高いと思います。内容もかなり原作に忠実で期待を裏切らないのではないでしょうか。余談ですが緑川夫人のキャラ・デザインが誰かに似てる、誰だろうと思ったら、「文句があるならベルサイユへいらっしゃい!」で有名なポリニャック伯夫人(ベルサイユのばら)に似てるんでした!   同時収録「血とばらの悪魔」 原作はパノラマ島奇談。脚色がされていましたが許容範囲です。原作のラストシーンは、かなりグロテスクなのですが、きちんと描かれてて、連載が「なかよし」だったことを考えるとよく許されたものだと感心してしまいます。両作品とも原作付漫画につきもののがっかり度は低く、一読の価値はありです。 ところで高階先生には「ドクターGの島」という「孤島の鬼」を漫画化した作品があるはずなのですが、復刻はまだのようです。話によると蓑浦くんが少女になっているというのですが、本当でしょうか。気になるので一日も早く復刻版が出ることを願ってます。
白髪鬼 横山光輝ほか 角川ホラー文庫
(コミック)
「白髪鬼」(横山光輝) わりと原作に忠実。 「地獄風景」(桑田次郎) これもわりと忠実。 「陰獣」(古賀新一) ・・・・・なんだこりゃ? 内容はアレだけど、服のセンスの古臭さが逆におもしろいかも。 乱歩の作品って今風の画風より古めの画風のほうが雰囲気でてあってるかも?と思わせる作品群でした。「陰獣」の内容は難だけど、他の作品は読んでおいてそれほど損はないと思います。
まんが江戸川乱歩シリーズ 少年探偵団全3巻 山田貴敏 小学館 
(コミック)
「怪人二十面相」と「大金塊」と「悪魔の紋章」を漫画化。しっかりした画風。原作を少々アレンジしていますが雰囲気は損なわれていないと思います。二十面相の変装が崩れるシーンがおどろおどろしくて、寄生獣でも飼ってんじゃないかと思いました。あれは変装ではなく変身です。地球外生物です。残念ながらこのシリーズは三冊目で終了。最後の作品は「悪魔の紋章(呪いの指紋)」の漫画化で、純粋な少年探偵団ものから離れてしまい残念。どういう基準で数ある少年探偵団ものの中から、よりによって大人向けリライトを選んだのか理解に苦しみます。少年探偵団と二十面相の対決も二十面相の正体の種明かしもなく、中途半端に終わってしまったところを見ると、某少年○ャンプでよくあるような打ち切りだったのかなと思ってしまいます。
怪人二十面相1、2 藤子不二雄A ブッキング
(コミック)
藤子A先生も少年探偵団を描いていた! 内容は特に飛躍もなく原作が尊重されている優等生的な漫画です。安心して読める作品だと思います。
黒蜥蜴 JET 朝日ソノラマ
(コミック)
絵も上手だし原作の雰囲気もよく出ていてよかったと思います。好感の持てる原作付き漫画でした。同時収録の「人でなしの恋」もよく漫画で表現されていると思います。
乱歩の時代 米沢嘉博 別冊太陽 何が嬉しいって画像が豊富なのが一番嬉しい。衛生博覧会の展示物の現物写真が載っているのはこの本です。 付録に昭和7年刊行江戸川乱歩全集についてきた「犯罪図鑑」が入ってます。
新編・「昭和二十年」東京地図 西井一夫・平嶋彰彦 筑摩書房 1986年刊「昭和二十年東京地図」と1987年刊「続・昭和二十年東京地図」を再編集して文庫本化したもの。私としては再編集するより、元の2冊をそのまま文庫化して欲しかったです。昭和二十年代の、二十面相がまだ現役だった頃の東京の風景が郷愁を誘うすてきな本で、私はとても気に入っているのです。
乱歩「東京地図」 冨田均 作品社 以前、図書館で見かけてそれっきり存在を見失っていた本で、最近になって再発見。 乱歩作品の事件現場は、自分が少年探偵団検証シリーズで行った調査の再確認に役立たせて貰いました。また、二十面相の「奇面城」に出てきた白いドレスの美女と文代夫人の関係に対する考察は注目です。
江戸川乱歩 −−− 平凡社 写真多様。乱歩作品をキーワードごとに考察を加えてます。
江戸川乱歩ワンダーランド 中島河太郎 沖積舎 平井隆太郎、北村想、島田荘司、横溝正史などによる乱歩にまつわる談話を収録。昭和4年新青年掲載当時の伏せ字だらけの「悪夢」が全項掲載されています。
月刊「現代」 2002年2月号 −−− 講談社 「いま蘇る少年倶楽部の世界」に「初出誌ににじむ江戸川乱歩のつぶやき〜2.26事件の年、怪人二十面相ははじまった〜(本橋信宏著)」が掲載されています。
江戸川乱歩全集 江戸川乱歩 光文社 2003年8月から随時刊行。光文社の宣伝文句によると、
「 江戸川乱歩のすべての小説、および主要な評論・随筆作品を網羅!  初出誌・初刊本などを比較検討し、作品発表当時の雰囲気を再現!  若い読者には難解な語句・興味深い事項を詳細に注釈し、作品がより深く味わえる。  読みやすい大型活字。文庫のイメージを超える風格ある造本! 」
が特徴なんだそうです。年代順に収録というのは新しい試みだと思いますが、青年向けと少年向けがごっちゃになってしまうところが気になるといえば気になるかも。しかし、少年向けだけに限って言わせて貰えば、ポプラ社の漢字を開いて不適切・難解用語を平易な言葉に差し替えたものよりずっーーーといいです。惜しむらくは挿絵がないこと。これで創元社推理文庫なみに初出時の挿絵がついていたら完璧だったのに。残念です。
網走発遙かなり   島田荘司 講談社文庫 一つ一つ独立しているようで、全部つながりのある内容。いわゆる短編連作ですね。不思議な事件が次々起こって各章ごとに一応の解決は見るのだけれど、どこか謎が残る。その謎も最終章で解決される。
 全体的な印象は「黙々と歩いてきてふと振り返ると黄昏に染まる古い町並みが見える。それが向こうから迫る夕闇に徐々に溶けていき、それを見ながら今見ている風景は二度と戻ってこないと心のどこかで知っている」という感じかな。
私の一番好きな章は「乱歩の幻影」。このせいで清砂通りの同潤会アパートを見に行きました。
奇想・天を動かす   島田荘司 光文社文庫 江戸川乱歩的な雰囲気を下敷きに書いたと解説に書いてあったので買ってみた。すごく面白かった。ただの消費税殺人と思われた事件の底に潜む、深く長い執念と時代背景に推理小説以外のものがあった。ありがちなただの「復讐」譚に終わらなかった。
占星術殺人事件   島田荘司 講談社文庫 平吉、吉男(良雄)、文子、秋子(亜紀子)と知子(友子)←二つ合わせて秋知、あけち。ちょっと無理矢理。みなさんニンマリするようなすてきな名前の持ち主。明智小五郎ファミリーとその好敵手の勢揃いだ。しかも事件が起きたのは起きたのが昭和11年。と、いえば「怪人二十面相」が世に出た年。
 さて、この殺人事件を可能にしたのは昭和11年という時代背景があったからこそ。そのへんも作品のトリックの一部ですね。読んでる人間は無意識に現代の法医学的見方をしてしまい、当時の鑑定結果を見過ごしてしまう。これって結構おもしろかった。でも、一番感心したのは壱万円札のトリック。なるほど〜と、感心してしまった。
 文中に2回出てくる挑戦状はちょっとうるさいかなあ。挑戦されても最初から謎を解く気なんてないから、ね。私はそう言う読み方をしない主義。作者の趣向を凝らしたトリックを楽しむのが私の読み方だから。(その過程で「ははん」と思うこともよくあるけど) こういうトリックの作り方、仕掛け方もあるんだんあ(アゾートトリックでなく作品の書き方)。
 おもしろいと言えば「東京から都電が消えると同時に、古き良き探偵小説も死んでいった気がして仕方がない」って一文。今じゃ二十面相ばりの犯罪劇を行いたくても、とてもじゃないけど無理だしな。(当時でも無理だけど。当時以上に今は無理)ええと、占星術殺人の話だったっけ。要するに何を言いたいかというと、一気に読んでしまうほどおもしろかったと言いたいのだ。
展望塔の殺人   島田荘司 光文社文庫 乱歩作品とは直接関わりがないが、事件現場が乱歩作品がらみの土地だったりする。最後のD坂の密室殺人なんてタイ トルからしてそうだし。ただ、読んでいてあんまり愉快ではなかった。ちなみに表題となった飛鳥山公園の展望 は現在は撤去され北トピアになっている。