目撃内容 その44
「K−20 怪人二十面相・伝」
脚本・演出/佐藤嗣麻子
原作/北村想
おすすめ度★★★

遠藤平吉 金城武 明智小五郎 仲村トオル
羽柴葉子 松たか子 浪越警部 益岡徹
源治 国村隼 小林芳雄 本郷演多
菊子 高島礼子 謎の紳士 鹿賀丈史

(乱歩の「二十面相シリーズ」、北村想の「怪人二十面相・伝」を期待すると途方もなく落胆するから、
両者のことはこの際忘れましょう。是非、忘れましょう。)




映画CM見てて思ったのは、「どうもこれは北村想の怪人二十面相・伝とは別物らしい」ということ。すでに乱歩のアナザーワールドである「二十面相・伝」からさらに別のストーリーになるなんて、どんだけ乱歩原作から離れるんだ?と、思わないでもないが、それならそれで完全オリジナルとして頭をカラッポにして楽しもうと心に決めました。
せっかくだからと以来、新聞評・番宣・雑誌・ネットと少しでもネタバレになりそうなものはできる限りシャットアウトして一ヶ月ちょっと。ようやく観て参りました。見終わって一言、「楽しい〜〜〜!!」

いやぁ〜、楽しかったです。久々に混じりっけ無し、痛快冒険活劇の王道を観た気分。お約束シーンの数々に心底感動させて頂きました。やっぱり変装解除はベリッ!バリッ!でなけりゃいけないし、逃走には高笑いが必要だし、マントはかっこよく翻らなけりゃいけないし、高いところも欠かせません。とにかく、何から何まで(どんでん返しさえも)期待を裏切らないストーリー展開で気分爽快です!
アクション・シーンも手に汗握りました。二十面相が主役なんだから、建造物のてっぺんは当たり前、裂帛の捕り物にこれでもかと連発されるアクション・シーン、疾走感がすばらしかったです。・・・いいなあ、あの秘密兵器(ワイヤー)。あんなの自由自在に使いこなしてみたい。
音楽もぴったり。フルオーケストラのスケールの大きな音が四方八方から押し寄せて、否や応なく気分も盛り上げてくれました。冒険活劇には映画音楽の王道こそ相応しい。こざかしいテクニックなど不要です。(映画音楽なんて見終わればすぐ忘れるけどまだ耳の奥で響いている。至福・・。)
私は充分満足しました。時間があったら居続けして観たかったくらいです。

さて、内容ですが、
まず冒頭部分で「第二次世界大戦が起こらなかった世界」とこの作品のポジションが語られていましたので、こちらとしても全てが「なるほどこれはパラレルワールドで、平行世界の明智と二十面相の物語なんだな」と、すんなり入っていけました。納得してしまえば、あとは何がどうであろうがたいした問題じゃございません。

       極論、二十面相がかっこよければ全てOKノープロブレム!          
  

                   ゆえにこの映画は傑作です。終了!

とにかく、こんなに胸のすくような二十面相(平吉・金城)を観ることができるなんてまったく夢のようです。従来二十面相といえばドジョウ髭の変態オヤジ・・じゃなかった、一人ショッカー・・でもなく、ショタコン・・・でもなく、えーと・・・・・。まあ、なんていうかそんな感じでファイナルアンサーだったから、金城・二十面相みたいに健全で明朗で青臭くてまっとうなヒーロータイプは今までになく楽しいです。はじめ、『平吉は金城武』と聞いたときは「そりゃないだろう?」と思いましたが、この平吉なら金城で正解だと思います。実に痛快。(でもちょんまげはイヤ・・・・)

仲村トオルの明智探偵は想像通りクールでかっこよくてよかったです。ただ、乱歩原作の明智でも北村想の明智でもないです。別人です。あんた誰?って位です。原作・明智の素性不明なところなど拡大解釈して妄想膨らませたらああならなくもないかなぁ。だとしても、明智探偵は絶対的に権力側の人間で、特権階級の中で出世したほうがなにかと効率がいいと熟知している人だと思うので、この映画のようなことは間違ってもしないだろうとは思います。どっちかっていうと、負けが込んでわけわかんなくなった乱歩原作・二十面相の仕業としたほうがまだ説得力がありますね。なんてったって原作・二十面相サマは、世界泥棒会議で世界中の泥棒仲間とかたらい、世界平和のために伝書鳩にUFOの切り抜きぶら下げて宇宙人襲来を装い、世界中を恐怖のどん底に陥れた人ですから。原作・二十面相サマ曰く、宇宙人が攻めてきたら戦争なんてやってる場合ではなくなり、世界中が協力しあって平和になるって。そのためには何だってやるって。・・・彼、マジでした。ウケ狙いじゃなくて(遠い目・・・)。

で、K-20の明智さん。正直、この手のヒールはモテます。主役よりモテてしまう。人気投票したらうっかり1位になってしまう、赤い彗星と同類です。ライトの系譜です。対決シーンでは「ロケットワイヤーの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる!」と言い、絡繰りピストルを手に苦笑しながら「認めたくないものだな、自分自身若さ故の過ちというものを(フッ)」と言ってしまいそうです。っていうか、私の脳内アフレコではすでに言っていた。
さらに言うとこの明智さん、「お前には俺が相応しい、俺にはお前が相応しい、共に新世界をつくろう、そして俺は新世界の神になる!(激しく意訳)」と平吉に自分と手を組むか(さもなくば死か)迫るシーンだけでもかっこいいのに、テスラ装置の雷光を仰ぎ見て「きれいだ」なんてつぶやかれた日にはもう大変です。一部(笑)女子の間では人気急上昇です。ストライクゾーンです。たぶん。激しく妄想をかき立てられる明智さんでした。

葉子さんはクラリスでしょ。あれがクラリスでなくて誰だって言うんです。断言。
平吉との最後のシーンなんて、いつ浪越警部が出てきて「ヤツは大変なものを盗みました。あなたの心です」と言うのか期待してしまいました それから彼女のもうひとつのモデルは三菱財閥の令嬢、沢田美喜でしょう。(岩崎弥太郎の孫娘。外交官令夫人となり、戦後、アメリカ兵との混血児のおかれた悲惨な状況を目の当たりにするにあたり、施設を開設、様々な偏見や圧力をはねのけ、生涯を通して尽くした女性)。助けを待つだけのお姫様でなく、自ら考え行動する有言実行のお嬢様+孤児の母たるには松たか子くらいの女優さんでなければやりこなせないと思います。気高く強くちょっと天然の入った目のきらきらした生まれながらのお姫様、羽柴葉子役は松たか子以外いないでしょう。(バカキャラとか巨乳アイドルじゃなくてホントよかった)。

小林少年はなかなかよかったんじゃないでしょうか(笑)。階級意識が強くて生意気で裏表ありそうで、気が付くと必ず勝ち馬に乗ってそうな・・・ってそれのどこが小林クンなんだ!?って言われそうだが、北村想版の小林クンならそれでOKかも。あの小林クンは自分ほど頭のいい人間はいないと本気で信じてそうだったからな。あの先生(明智)にしてこの生徒(小林)ありって感じです。だいたい乱歩原作の小林くんも「(ノガミ=上野の浮浪児に)きみたちみたいなのを少年探偵団にいれたら他の団員が怒るからいれないよ。だからきみたちはチンピラ別働隊だ」「少年探偵団の団員を危険な目にあわせるわけにはいかないから(3Kの仕事は)チンピラ隊にやってもらうよ」等々言ってしまう、いけ好かない教育のし甲斐のある少年なのですから。でも本質は皆さんご存じのとおり賢くて責任感が強く、勇敢でなおかつ真っ直ぐな性格の、でも作戦が失敗して泣きべそをかいたりしてしまったりするかわいい少年なのです。

とにかく、細かいことは言いっこなしで正月早々気分爽快リフレッシュさせて頂きました。血湧き肉躍る大冒険バンザイ! DVD出たら買うぞー!!!


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ところで続編あるだろうか。私の行った映画館ではとても望めそうにない客の入りだったけど、みなさん所々で笑ったり身を乗り出したりしていい感じでした。続編があるなら今度こそ二十面相の劇場型犯罪を中心にお願いしたいです。明智探偵は北村原作通り小林くんが襲名するのも良し、デスラー総統みたいに実は生きていたっていうのもよし、パラレルだからそのへんは何でもありかと思いますデス。
2009年1月23日


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