目撃内容(番外編) その31 映画「イノセンス」公開記念 押井守監修 球体関節人形展 〜DOLLS OF INNOCENCE〜 2004年2月7日〜3月21日 東京都現代美術館 おすすめ度★★★ |
![]() その花やかな、情慾的な顔が、時代のために幾ぶん色あせて、唇のほかは妙に青ざめ、手垢がついたものか、滑らかな肌がヌメヌメと汗ばんで、それゆえに、一そう悩ましく、艶めかしく見えるのでございます。 (略)ふっくらと恰好よくふくらんだ乳のあたりが、呼吸をして、今にも唇がほころびそうで、そのあまりの生々しさに、私はハッと身震いしたほどでございました。』 以上、「人でなしの恋(創元推理文庫)」よりの抜粋でした。 現代の生き人形展、球体関節人形展に行って参りました。雑誌や写真でみることはありましたが実物を見るのは初めてです。球体関節人形は想像を遙かに絶しておりました。まさに抜粋のごとく浮き世人形を初めて目にしたときの門野の妻の心境でした。いや、まるで生きているようだの域を超え、また別の次元に存在しているようなのです。無抵抗であるものの持つ痛々しさ、避けられない理不尽な仕打ちへの諦念、閉ざされた魂の沈黙、真っ白な闇、そんな雰囲気が漂っているのです。かといって決してどろどろしたものではなく、とりとめのない不安や繰り返される答えのない疑問みたいな感じに似ている気がします。とにかく魅入られます。一体一体釘付けです。 これは観てきて!と思う作品選 秋山まほこ:「透視」 小さな丸テーブルにレースのテーブルクロスが掛けてあり、少女の人形がその中に隠れています。見つけた時はかなりドキリといたします。レースを通して女の子の顔をのぞき込むようにするととってもいい感じなので、試してみてください。カタログに載ってないの是非自分の目で。 秋山まほこ:「金魚の巣」 個人的に「ちび猫(綿の国星)」と呼んでます。魚缶を探し歩いているときのちび猫のイメージぴったり。 山本じん:「天国のH.Bに捧ぐ」 少年の墜落遺体のように見えます。バラバラになった手足、広がった髪が痛々しい。 山本じん:「人形T」 諸戸道雄、蓑浦君を活体解剖中・・・なんてね。長々と仰向けて横たえられた少年の腹が開かれ内蔵がむき出しになっています。内蔵には綿毛が詰められ、左足をわずかにあげ、両手は何かを避けるように顔の前に揚げられています。これは顔の方から眺めるより、足の先から眺めあげるほうがいっそういい感じのように思えます。 山本じん:「人形・・」 タイトルがないから採集された少年、とでもしておきましょう。等身大の標本ケースの中に虫ピンで挿された夥しい蝶の標本と一緒に少年が納められています。なにか象徴的・・。 山本じん:「永遠の少年」 小林少年・・? 恋月姫:「das SeeleT」 栗色の髪の少女が無心に眠っている姿。無防備に投げ出された手や白い頬に陰影を作る長い睫毛が非常に愛らしいです。それこそ本当に寝息が聞こえてきそう。中でも一番のお気に入りです。これなら欲しいかも・・。門野氏(人でなしの恋)も気に入ってくれると思います。 恋月姫:「requiem」眠る童話の姫君そのままです。これも生きてるみたい。ガラスの棺に納められてまるでいばら姫のよう。これも欲しいかも〜〜。 中村寝郎 全作品 絶対中に誰か入ってると思う。乱歩作品の世界です。吸血鬼、蜘蛛男、盲獣etcetc・・・。 月光社:「九体球体関節人形 生成流転」 前屈みになって下をのぞき込んでいる人形がお気に入り。下からのぞき込む角度で見るのがいいです。 マリオ・A 人形写真。トランクに詰められたバラバラ人形、水に浮かぶ死人形(タイトルは勝手に付けました)ほか。これって、全パーツが人形ではないですよね? 部分的に本物の人間を使って、人形っぽくみせてるんですよね? 会場で観ていた人たちも写真に見入りながら盛んにそのことについて議論してました。カタログをみてもわかりません。この写真も乱歩ワールドですよ。 天野可淡:「コウモリ」 コウモリの羽をもつ赤子。泣いている表情が、まるで鳴き声が聞こえて来そうなくらい真に迫っているのです。 カタログも売ってますが、「das SeeleT」「透視」「採集された少年(勝手に付けました)」などいい作品の写真が割愛されてしまってます。図録なのにあんまり図録の用を足してません。白黒でも小さな写真でもいいから全作品を載せるべきだと思います。著作権関係で無理なものもあるようですが。 図録には不満が残りますが、百聞は一見にしかずです。乱歩ファンならきっと気に入ると思いますので とにかく、お行きなさい。 (気に入らなかったらごめんなさい・・・・。弱気)
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2004年2月21日 球体関節人形展公式HP |