目撃内容 その14
「アゲイン〜怪人二十面相の優しい夜」
作/横内謙介
おすすめ度★★★

怪人二十面相 近藤正臣 花崎まゆみ 高橋麻里
明智小五郎 山中たかシ 小林少年 鈴木利典

 未だかつてこんな力の入った明智小五郎を見たことがあるだろうか。明智さんの一挙手一投足が野生のクマを目の前に素手で戦いを挑む極真空手の門人のよう。充満する気迫に今にもこめかみの血管が切れ、脳が沸騰し爆発しそうだった。ああ、青春ドラマの明智さん・・・。かっこいい。
 社会の垢にまみれ見る影もなくなった元少年探偵団員に、いっそ死なせてあげるのが情けというものだと銃口を向ける明智さん、短絡的でステキでした。けしかけられたトラを手なずけてしまったむつごろうと親友の明智さん、やさしくてステキでした。元少年探偵団員(いまや立派なオヤジ)に大人の分別でたてつかれ、ショックを受けてふらふらと退場する明智さん、気の毒なところがステキでした。元少年探偵団員に裏切られても、やっぱりみんなを見守ってくれていた明智さん、頼りがいがあってとってもステキでした。山中たかシさんの明智さん、見なきゃ損です。

 このお芝居、すごく評判がいいようなので再々演も期待できそう。二十面相役の近藤正臣さんもこの役をひどく気に入って演ってらっしゃることですし、続編作って三部作にしてほしいとの希望もある様子。3部作かぁ・・・。実現したらどんなにいいだろう!  

〜詳 細〜


紀伊国屋サザンシアター
席について

 前売り開始日、何故か2時間半近くぜんぜん電話がつながらず困惑したが、そこそこいい席が当たったのでホッとした。どうもこの日は月組のベルばらと前売りチケット販売日がぶつかったらしい。素直に紀伊國屋か劇団に電話するんだった。
 日比谷、有楽町あたりの大劇場しか見たことない身には、高校の文化祭級にこじんまりとした舞台で非常に驚いた。私の当たった席は、そのこじんまりとした舞台がほとんど目と鼻の先にある。心底観たいと思った舞台でこの至近距離は踊り出したくなるような喜びだった。実際、一人一人の役者さんの微妙な表情の動きまでよ〜く見えて最高だった。ついでに座席の並びは千鳥掛けになっていて、前がLサイズの頭でもそんなに邪魔にならない。劇場自体がこじんまりとしているので、後ろの席でもわりとよく見えるのではないかと思われる。              

アゲイン〜 怪人二十面相の優しい夜について

 二十面相が表舞台から姿を消して30年後の設定。すっかり年老いた二十面相は今度の水戸黄門に髭がないことに驚きうろたえるただの老人となり果てて、昔の光いまいずこ状態。日々初代水戸黄門のビデオを観ることを楽しみにしている冴えない老人・二十面相ではあったが、部下たちはかつてのように華麗に活躍してもらいたいとその復活を信じ、待ち望んでいた。そんなある日、小間使いが二十面相の日記に「もう一度少年探偵団と戦いたい」と書いてあるのを発見したのをきっかけに、部下たちはその言葉に二十面相の再起をかけ、かつての少年探偵団員をさらってきて二十面相と戦わせることに。しか〜し、30年の月日はかわいらしかった少年たちを無惨なオヤジに変貌させ、二十面相以上の無惨をサラしていた・・・・。と、いうような導入。いまや油ギッシュでふてぶてしくなった中年探偵団と、復活してもあいかわらず一本筋の通った子供騙しの二十面相(そこがやっぱりかっこいい。)、それから昔とちっとも変わらぬ姿の熱血漢明智小五郎率いる小林少年、「ぼくらのおねえさま」花崎まゆみまで復活してきて二十面相の隠れ家ですったもんだの大騒動。大いに笑わせられて最後にジンとさせられる。
 これは二十面相ファン、少年探偵団ファンの人には(それ以外の人たちにももちろん)是非、観ていただきたい。そして自分が「二十面相に祝福された子供」の一人であったことを思いだして貰いたい。 「祝福された子供」。私はこの言葉に本当にまいってしまった。自分の子供だった頃のことが鮮やかに瞼に蘇ってきてしまった。二十面相が祝福した少年たち、テレビゲームや学習塾がまだ主流派ではなかったころの子供たちの原風景を少しでも持つことができた大人だったら、このお芝居にきっと胸が締め付けられるような気持ちになれると思う。
 (一つだけ気になることがあるとしたら、蛭田の扱いかな。蛭田くんにもなんらかの救いが欲しかった。あのままではちょっとかわいそう。)
 
キャストについて

 二十面相、元少年探偵団の3人、明智くん、小林少年、まゆみおねえさま、二十面相の部下たち、どの役者さんもこれ以上は望めないだろうと思うくらいハマリ役だった。近藤正臣さんの二十面相は原作のがそのまま30年たったらきっとそうなるだろうというくらいにイメージぴったり。しなしなと気取りまくった手の使い方、しゃべり、立ち居振る舞い、二十面相そのまんま。観ながらずっと「二十面相だ、二十面相がここにいる!!」って心の中で叫んでた。元少年探偵団も無惨な崩れようが妙にリアルだったし、明智小五郎も原作読みながら「明智小五郎って冷静に考えると、ちょっと変だよね」なんて思っていた変な部分がこれでもかと強調されて、「そう、そう、明智さんってこんな人だよ!」と納得させる迫力がある。再々演されることがあるとしたら、やっぱりこのキャストで観たい。それくらいのベスト・キャストだと思う。

 追記:初日観に行った次の日、紀伊國屋最終日のチケットを買ってしまった・・・・。個人的に大ヒット作。
    
2001年4月26日


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